話し合いトレーニング:伝える力・聞く力・問う力を育てる自律型対話入門

2014年8月16日

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編集人・田中さをり
千葉大学大学院にて哲学、 倫理学、情報科学を学ぶ。アメリカのコネチカット大学で訪問研究員として二年間過ごした後、日本の複数の大学や企業でテクニカル・スタッフとして勤務する。 日米でのアカデミックな経験を通して、学術分野での広報と質の高い文章作成の重要性を実感する。現在、様々な媒体で科学技術や哲学に関する執筆活動を続けている。




哲楽創刊号から広告を出していただいている、ナカニシヤ出版さんより、最近出された本をご恵投いただいた。どれも哲学や教養をめぐる「今」を鋭く捉えた好著なので、一冊ずつご紹介したい。

話し合いトレーニング:伝える力・聞く力・問う力を育てる自律型対話入門

大塚 裕子 編著
森本 郁代 編著

134798「これは使えそう」というのが本書を手にしたときの第一印象だ。ワークブックとして、教室などで議論をしながら使うための本としてデザインされているので、随所にその工夫が見られる。まず、B5版の大きさがいい。中には書き込みができるスペースがあり、この大きさだと、開いた時に本が自立する。そして章立ての見出しが大きい。この本の構成は、議論の基本的なルールを学び、実際に議論を体験し、互いに評価して、改善し、発表するという、実践型のプログラムになっている。見出しが大きいことで、このプログラムでの学びの進度が正しく把握できるのだ。さらに、コラムがいい。コラムのタイトルだけ抜き出してみよう。

 

  • コラム1 どの話し合いの形式にどんな効果があるの?
  • コラム2 話し合いにもルールがあるの?
  • コラム3 科学コミュニケーションはどうして必要なの?
  • コラム4 話し合いは,良いことばかりなの?
  • コラム5 コミュニケーション力をトレーニングするには?
  • コラム6 話し合い以外に意思決定の方法はあるの?
  • コラム7 話し合いに道具は必要なの?
  • コラム8 裁判員制度での評議は普段の話し合いと何が違うの?
  • コラム9 コミュニケーション能力は就職活動にとって大事なの?

これだけでも、十分な読み応えがあるし、著者らのこの本にかける思いが伝わってくる。話し合いの基本的なルールとして、(1)グループに貢献するようにする(2)人を傷つけるような行動を避ける(3)個人の人格と意見を切り離す、の3つが挙げられているのもいい。脳死臓器移植のような倫理的な話題だけでなく、自動車の自動運転化に関するトランス・サイエンスの話題も例に挙がっているので、文系・理系を問わず、高校や大学、カルチャーセンターでも試してみることができそうだ。まえがきの中にこの本がまさに「トレーニング」のための本だということがわかる一節があったので最後に紹介しよう。

「知識が与えられる前に、自分で考えてみるということはとても重要です。そして考えたうえで、本書で紹介する訓練を繰り返し実践してみて下さい。繰り返すことで意識が変わり、意識が変わることで、実践の過程で得られる経験や知見がスキルとなって身につきます」

他人との話し会いのための力を訓練で身につけるなかで、自分自身の意識も鍛えてくれそうだ。日本語の日常会話では、科学的・政治的な話題になるとあえて言明を避ける文化がある。だからこそ、どんな話題であっても思い切り話し合うための自由で安全な場所が必要とされている。そんな場所の運営を任された方には、一度使ってみてほしい。仲間と改良を重ねて、オリジナルのワークブックを作ってみるのも面白いかもしれない。

もくじ

第1章 はじめに
1-1 話し合いが自律しているということ
1-2 自律的対話能力の必要性
1-3 自律型対話プログラムの特徴と概要
1-4 本書の使い方
1-5 お使いになる先生へ
コラム1 どの話し合いの形式にどんな効果があるの?
コラム2 話し合いにもルールがあるの?
第2章 まずはやってみよう
2-1 ディスカッション練習の流れ
2-2 話し合いのルールと考え方
2-3 テーマの選び方
2-4 自分たちのディスカッションを評価する
2-5 友人たちのディスカッションを評価する
コラム3 科学コミュニケーションはどうして必要なの?
第3章 話し合いを通してお互いを高めるには
3-1 ふり返ることの意味
3-2 ふり返りの順序と準備
3-3 参加者同士・観察者同士でのふり返り
3-4 参加者・観察者合同のふり返り
3-5 ふり返りのコツ
コラム4 話し合いは,良いことばかりなの?
コラム5 コミュニケーション力をトレーニングするには?
第4章 スキルを改善する手法1:発見シート
4-1 発見シートとは
4-2 発見シートの使い方
4-3 発見シートのFAQ
4-4 各項目の解説
第5章 スキルを改善する手法2:議論ステップモデル
5-1 多様な観点や多様な立場で意見を積み上げるスキル
5-2 議論ステップモデルとは何か
5-3 議論ステップモデルを使うときの留意点
コラム6 話し合い以外に意思決定の方法はあるの?
コラム7 話し合いに道具は必要なの?
第6章 話し合いをまとめて発表する
6-1 プレゼンテーションの準備
6-2 プレゼンテーション資料を作る
6-3 発表と質疑応答
コラム8 裁判員制度での評議は普段の話し合いと何が違うの?
コラム9 コミュニケーション能力は就職活動にとって大事なの?
第7章 おわりに
7-1 自律的対話能力が求められる場面とは
7-2 自律的対話社会の構築に向けて

引用・参考文献
付 録

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