「ロボット社会のゆくえ」講演会に行ってきました

2015年9月9日

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哲楽編集人・田中さをり
千葉大学大学院にて哲学、 倫理学、情報科学を学ぶ。アメリカのコネチカット大学で訪問研究員として二年間過ごした後、日本の複数の大学や企業でテクニカル・スタッフとして勤務する。 現在、高校生からの哲学雑誌『哲楽』をはじめ、様々な媒体で科学技術や哲学に関する執筆編集活動を続けている。




Photo:  target="_blank">Horia Pernea.  CC  BY-2.0(cropped)

Photo: Horia Pernea. CC BY-2.0(cropped)

 

「ロボット革命」という言葉をみなさん聞いたことがあるでしょうか。これは、政府主導の成長戦略のひとつの目標で、今年2月には「ロボット新戦略」が公表され、話題になりました。この国家戦略のアクションプランによって生み出される27年度の研究予算は、総額約160億円(ロボット革命実現会議資料「ロボット関連の平成27年度予算概算要求について」より)です。今後5年間で民間投資の拡大を図ることで、1000億円規模のロボットプロジェクトを推進して、2020年には、現在の6000億円の4倍にあたる2兆4000億円の規模にロボット市場を拡大させることが目標とされています。

さてそうしたなかで、ロボットに関わる問題を哲学分野でも議論していこうと、ロボットの応用哲学研究会の主催で、2015年9月7日から9日、サマースクール「ロボット社会のゆくえ」が開かれ、2日目の講演会で、以下の方々が登壇しました。ここでは、それぞれの講演の概要と、これから議論が発展しそうなポイントをまとめてレポートします。

 

  • 赤坂亮太氏(慶應義塾大学メディアデザイン研究科・講師)「ロボットの社会進出に伴って生じる法的な問題について」
  • 村上祐子氏(東北大学文学研究科・准教授)「概論:ロボット倫理」
  • 尾形哲也氏(早稲田大学基幹理工学部表現工学科・教授)「ロボットにおける深層学習モデルの応用とコミュニケーション」

 

「ロボットの社会進出に伴って生じる法的な問題について」

最初に、法学の分野から登壇した赤坂亮太氏は、ロボットの定義が曖昧なことから、既存法の穴にある存在になったときの問題を指摘しました。具体的に挙げられたのは、今年4月に首相官邸に小型無人飛行機「ドローン」が墜落したときに、航空法で低空における模型飛行機の取り扱いが規定されていなかった問題です。赤坂氏は、今後、法整備の過程に専門家の意見がより反映されやすくするためにも、ロボット法学会を立ち上げることを決めたと話しました。

 

「概論:ロボット倫理」

次に、哲学分野から登壇した村上祐子氏は、ジェンダー問題を含むロボット研究の倫理について、コメンテーターを超えた立場が哲学者に求められると指摘しました。また村上氏は、「自動で道徳的推論ができるロボット」についても触れ、それがどのレベルで何ができているのかを知るために、状況推論・状況行為・言語推論・言語行為で区別できるはずとして、これらの4つのレベルについても解説しました。

 

「ロボットにおける深層学習モデルの応用とコミュニケーション」

最後に、工学の分野から登壇した尾形哲也氏は、ロボットと人工知能研究のこれまでの流れを解説するなかで、機械・電気系に属するロボット工学者と、情報・通信系に属する人工知能工学者では、前提となる数学的知識も研究内容もまったく異なるものだったにも関わらず、早稲田大学で1970年代に世界で初めて開発された人型ロボットWabotのプロジェクトでは、まったく違う文化の人が一緒に開発にたずさわったと指摘しました。

また、人工知能が人間を超えるとする「技術的特異点(シンギュラリティ)」問題については、「部分的にはもう超えている」として、将来的に招きうる危険については、予測できることを隠さずに公表しながら、法律の専門家たちとも広く議論していきたいと話しました。

 

まとめ

ロボットの法的議論で問題になっているのは、ロボットによって法が犯されたときに、誰が責任主体になるのかという点です。ロボット新戦略でも「ロボット」の定義がかなり広く捉えられていることを考えると、製造者と購入者との責任の度合いは、今後、個別のケースによって変わってきそうです。

その一方で、国家の成長戦略を担うロボット研究者や製造者の「権利」を守ることも今後重要になってくるかもしれません。例えば、ロボット先進国の日本の研究者が英語で書いた論文をもとに、アメリカや中国の会社が製品化して国際特許化してしまうという例はいかにも起こりそうです。ただでさえ競争が厳しい分野で働く研究者を守るために、ロボットの知的財産を守る機能をどこが担うのかも気になるところです。

また、ジェンダー問題については、ロボット工学者のなかで議論がなされるのは非常に稀なため、哲学の分野からも十分サポート可能なはずです。自動道徳的推論ロボットについても、この整理が進めば、翻って「道徳的推論」と呼ばれるもので、人間が一体何をやっているのかについてもより深く考えられそうです。哲学や研究倫理を含めたこうした問題をみっちり議論できるのは、哲学者の強みですから、今後も多分野にわたって継続的に議論できる場が欲しいところです。この意味でも、「ロボットの哲学研究会」には、今後も要注目です。

最後に、人型ロボットが世界に先駆けて日本の大学で開発され、その共同研究の成果が今日のロボット産業の発展につながったと考えると、国内のオリジナルで貴重な産業を産学官連携で強化していこうとするロボット戦略の意義もわかります。一方で、大規模な研究予算が割当てられると、研究者のプレッシャーも大きくなり、それが新たな問題を生むことも知られています。ロボットが人間に及ぼしうる脅威、法規制で生じうる新たな問題、研究倫理や哲学的問題についても、議論が深められながら、ロボット研究者の権利も守られつつ、研究開発が進められることを期待したいです。

東京オリンピックでは、ロボットによる競技も見られるかもしれないですし、無事に2020年が迎えられますように!