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哲学関連ニュース
2015年12月12日、ホテル&レジデンス六本木にて、第2回:「永井均氏に聴く:哲学の賑やかさと密やかさ」が開催されました。
お集り頂いた皆様、そしてご協賛頂いたぷねうま舎の皆様、会場のご提供を頂いたホテル& レジデンス六本木の皆様、有り難うございました。 森岡正博さんによる 永井均さんインタビュー、ハイスピードで進みましたが、時折笑いが起こるほど和やかな会になりました。収録の内容は来月公開予定です!
編集という仕事には、ノウハウがない。出版社の流儀はあるだろうけれど、編集は編集者の人間性に左右される個人芸のようなものだ。自分以外の人に文章を書いてもらう仕事でもあるからこそ、その文章には愛が溢れていなければならない。
59才になられる都築響一氏は、憧れの編集者の一人だ。文章だけでなく、その写真にも愛が溢れているからだ。その都築氏の語りを文字に起こしたこの本、『圏外編集者』には、その愛がどこから来ているのか、納得できるエピソードがちりばめられていた。
『POPEYE』 や『BRUTUS』といった雑誌で、現代美術や建築、デザインまで幅広い領域の記事を、国内外での取材をもとに書き続けて来た都築氏。とくに初の写真集となった『TOKYO STYLE』は衝撃的だった。6畳一間の小さな部屋で暮らす都会の人々の普通の暮らしを生々しく捉えた写真の数々。決してお洒落でモダンではないけれど、その人の生き様が透けて見えるような部屋に、何度「ああ、背伸びしなくても、これでいいんだ」と励まされたことか。
「ネットでこれだけ情報が行き渡って、イケアみたいにかえって地方の方が安価でお洒落なインテリアを手に入れやすかったりする現在では考えにくいけれど、 当時は東京と地方には情報伝達の時間差が確実にあった。そうして、メディアが取り上げる例外的な「東京」が、いかに美化されたウソなのか、それが地方の子 たちに、いかに無用な劣等感を植えつけているのかが痛感できた。そういう「大手メディアの欺瞞」にこのへんで気づいたことが、僕にはすごく大きなことだっ た」(同書、p.84)そう語る都築氏にとっても、『TOKYO STYLE』はひとつの転機だったのだ。
その都築氏は、最近、ROADSIDERS’ Weeklyと いう有料メールマガジンを始めた。私も購読していて、女の人の裸体が描かれた作品が多いので、職場では絶対に見られないけれど、死刑囚の詩や、精神科の病室の壁に描かれた絵を見ると、はたと立ち止まる。ふだん、パソコンを使ってどれだけ早く、どれだけ正確な情報をやり取りするかが勝負な仕事をしていたら、 視線が向けられることもなくそのまま通り過ぎてしまうようなものに、都築氏はカメラを向け、言葉を記録する。
このメールマガジンについて、都築氏はこのように語る。
「『ROADSIDERS’ Weekly』の購読者にも、僕よりいろんな場所に旅したり、いろんなことに精通しているひとはたくさんいる。でもたいていの人間は日々の生活で忙しい。 おもしろそうとは思っていても、「じゃあ明日行ってみよう」とはならないし、気になる人間がいても、あえて声をかけるまでにはいたらなかったりする。僕はそれを、購読料というお金をいただいて、みんなのかわりにやってるだけだ。プロってそういうもんじゃないかと、最近つくづく思う。たとえば人間だれしも 「なんのために生きているんだろう」「死ぬとどうなるんだろう」と気にはなる。でも毎日、そんなことばかり延々考えていたら、仕事にならない。そういうひとたちの代わりに、哲学者は一生かけて考えて、それを本にまとめたから買って読んで下さいね。ということになる。みんなの代わりに深く考えるひと、遠くまで行くひと、おいしさを突き詰めるひと……報酬というのはその労働の対価なんじゃないかと、僕はメルマガをやるようになってすごく感じるようになった。」 (同書、p.238)
他にも、反東京、反現代美術、反現代詩を体現しつつ、地方で情熱的に暮らす人々の創作活動を切り取ってきたエピソードには胸を熱くするばかりだ。
哲学だって本来そうだったのじゃないのか。「背伸びしなくたってできるはずのもの」。専門家と非専門家の違いはあるにせよ、大学で哲学を教えている人々が学会会場や学会誌で発表するものだけが「哲学」だったとしたら、それはあまりに一面的に過ぎないか。地方出身で、これといった専門もなく、小さな哲学雑誌を作り続けて来た私には、都築氏の語る言葉が、どれも重く響くのだった。
今月の編集人Tweeter (@MIDAP) で通り過ぎていった哲学関連ニュースをまとめてお届け!2015年11月30日〜12月28日分
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出版不況と言われて久しい昨今、小さな手作り雑誌としてスタートした哲楽も、厳しい状況は続いていました。第1号では紙を問屋さんから少数の紙の束を買って、自分たちで刷って、製本して、それを池袋のジュンク堂さんや、雑誌のオンラインストアの富士山マガジンさんに置いてもらっていました。ガソリンスタンドに行って、ガソリンを1ℓ下さいと言っても売ってもらえないように、数百枚単位の販売をしてくれる紙の問屋を見つけるのにも苦労しました。家電量販店で レザープリンターを買っても、追加のトナーがすぐに手に入らず、書店から追加注文が入っているのにすぐに補充できなかったり。書籍の流通を担う取次業者に相談しても、書店での販売実績が20以上なければ受け付けられないと言われ、学会会場での手売りを続けたり。本の一読者であったときには知ることもなかった、書籍の生産から流通までを取り仕切る大量生産・大量消費を前提とした業者の在り方に、名も無い少部数雑誌の制作を続ける編集部は、何度も壁にぶちあたったものでした。
年末になって、いきなりこうした苦労話をしんみりと語り出したくなった、というわけではないのですが、都築響一氏の『圏外編集者』を手に取ってから、かつての情熱が再びふつふつと湧いてくるのを感じています。それは、「哲学者の声を届ける」というとってもシンプルなものでした。
しかし、そもそも哲学というジャンルそのものが昔も今も常にベストセラーを狙えるようなものではなかったわけですし、既存の流通形態や、出版社からの広告に100%依存した販売形態では、読者が情報を得る選択肢が広がった今、持続可能なものになりえないということに気がついたのでした。むしろ、日常会話に哲学的な話題が満ちあふれているわけではない日本で、哲学者が書く本が広く読まれている方が特殊な事態でしょう。そこで読者が何を読書の楽しみとして享受し、日々の生活の中で哲学書を読む時間を作っているのかを探りつつ、読者の声と哲学者の声を直接つなぐような試みができないか、考え始めています。小回りが利く小さな雑誌編集部だからこそできることを。
そのうちの1つの試みとして、哲楽に哲学エッセイを投稿できるような仕組みを、来年新たに始める予定です。掲載可能と編集部が判断させて頂いたエッセイは、哲楽ウェブサイトに掲載して、さらに厳選したエッセイが雑誌版の哲楽に転載されるようにしていきます。哲学者インタビューも、もちろん続けていきま す。
ときには反省もする哲楽ですが、来年も、合流・共演いただけたら嬉しいです!
田中さをり
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