哲楽メールマガジン10月7日号

2016年10月7日

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哲楽編集人・田中さをり
千葉大学大学院にて哲学と情報科学を専攻し、それぞれ修士号、博士号を取得。現在、都内の大学で広報職員を務めながら、哲学者へのインタビューを続けている。

 哲楽メールマガジン

2016/10/7日号 vol.24

いつも高校生からの哲学雑誌『哲楽』を応援頂きありがとうございます。哲楽メールマガジン、今号は2ヶ月分のニュースをまとめてお届けします。最後までゆっくりお付き合い下さい!

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応用物理学会・企業展示会内サイエンスカフェ「参加を促す情報とは? ——学術広報の現場から」

Book Review
山内志朗『感じるスコラ哲学:存在と神を味わった中世

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応用物理学会・企業展示会内サイエンスカフェ「参加を促す情報とは? ——学術広報の現場から」

新着記事:世の中には自分の知らない世界がまだまだある。「応用物理」という世界もそのひとつ。日本応用物理学会という学会があることを私はこれまで知らなかった。学会ウェブサイトによると、会員数は2万人を超え、春と秋に毎年二回開催される講演会にはそれぞれ7千人と6千人が参加して、4000件の発表がなされるという。日本学術会議の協力学術研究団体一覧では、工学系に分類され、大会では企業が商品の展示をすることもできる。

2016年9月14日、新潟市にある朱鷺メッセにて開催された応用物理学会秋季学術講演会・JSAP EXPO Autumn 2016でのサイエンスカフェにお招き頂いたときの様子をお届けしたい。

続きはこちらのページからどうぞ。

応用物理学会・企業展示会内サイエンスカフェ「参加を促す情報とは? ——学術広報の現場から」

Book Review

山内志朗『感じるスコラ哲学:存在と神を味わった中世

img-yamauchi哲学史の中でも特に複雑でわかり難いといわれる中世スコラ哲学。本書によると、スコラとはキリスト教の神学校を指し、「ラテン語と無味乾燥な勉強」がのちに体系化されて大学で大神学者により講義されるようになったものがスコラ哲学であるという。これまでそのスコラ哲学の見所・勘所を披露しつつ、水先案内人として多くの著作を残してきた著者は、本書で「感じる」ことを基点として、スコラ哲学の醍醐味を再現することを試みている。

とくに、後に哲学的大論争に発展した、普遍は事物とする実在論と、名称とする唯名論との通説的な対立関係を、14〜15世紀の教会のミサで用いられたパンにまつわる諸説から切り崩していく様は圧巻である。キリスト教では、パンとワインを食すことでキリストの肉と血をいただく証とする「聖体拝領」という儀式により、教会の一員(member)つまり、教会の体の一部になると考えらているが、これを支えていたのが中世の「実体変化説」という教義だという。パンという実体は消滅しても性質は残るとするこの実体変化説を、実在論者のウィクリフも、唯名論者のオッカムも、「偶有性は基体なしに存在しえない」として否定する。

そして、その否定の背景には、裕福な人にしか実現できなかった聖体拝領の儀式のあり方、ひいては教会そのものを批判的に捉える論理的な神秘主義があったことが、本書の終盤でじわじわと示されていく。身体から切り離された概念上の対立として考えられがちな論争の端緒が、こうして中世の文化や慣習、そしてパンやワインといった味覚で感じられるものを切り口に開かれていく。

しかし、そうは言っても、中世スコラ哲学の素材が難解であることは事実である。もし本書で引っかかるところがあれば、前年の哲楽インタビュー時に著者の山内志朗氏が薦めていた「音読」をお試しいただきたい。きっと少し、理解が進むはずである。

 

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今月の編集人Tweeter (@MIDAP) で通り過ぎていった哲学関連ニュースをまとめてお届け!2016年7月30日〜10月1日分

哲学・倫理学

教育

軍民両用技術

ロボット・人工知能

障害・手話

社会

医療・生命科学

出版

テクノロジー・エンハンスメント

 

Afterword

編集後記

ここ最近は、魅力的な哲学書の出版が続いているのにもかかわらず、外勤先での仕事に追われて、帰りの電車では頭が働かないことが多くありました。組織の広報には、SNSでの発信という仕事があるので、どうしてもTwitterやFacebook等のSNSも使わざるをえないのですが、これもまた疲労の一因ですので(イベントに何人登録してくれたかなとチェックするだけで冷や冷やします)、新聞のデジタル版を契約して、SNSをチェックする時間の一部を新聞を隅々まで読む時間にあてるようにしました。例えば、もんじゅの廃炉の問題など、背景にある専門的な知識がないと読みこなせないニュースでも、日々経緯を追っていると、新しい学びがあります。新しい学びがあると、少し疲労が軽減します。逆に誰かが商品を売るために情報を作為的に改変しているものに触れると、疲労が倍増します。

ここでちょっと考えてしまうのは、労働によって、自らの時間とお金を引き換えるバランスがどの程度の疲労度で保たれていれば、人は幸せでいられるのか、ということです。みなさんはいかがでしょう。

私の場合、労働による疲労度が、通勤時間に哲学の入門書が読めるくらいであること、庭の植木を枯らさない程度になるようにしています。それを超えるくらいの疲労になると、いくらお金が貯まっても、お金をどう使うべきなのか判断する気力を失います。また、愚痴が増え、僻みっぽくなる気もします。そして、今・ここじゃないところにもっと素敵な幸せがあるんじゃないかと無駄な想像を始めてしまいます。「人の話の9割は愚痴と自慢話」と阿川佐和子氏がどこかで書いておられたようですが、哲学者へのインタビュー中に愚痴と自慢話と夢物話を展開するインタビュアーを想像すると、ちょっと洒落になりません。

なるべくなら、ほどほどに労働しつつも、眠る前にはいつも慈愛に満ちた気持ちでいたいものです。

 

田中さをり

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