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「田中朋弘さんは、熊本大学で倫理学を教えている。大阪大学でカント倫理学についての博士論文を書い ていた時期に、生命倫理、ビジネス倫理などの応用倫理学の研究を始めた。カントの専門家というと、 義務論を厳格に適用する研究者としてイメージされるかもしれない。義務論とは、何か道徳的な問題を考え る時に行為の手続きが端的に命じられるものであること。「人を殺すな」とか「嘘をつくな」という例のよう に、私たちも他の理由を用いずに義務論的に子どもに伝えることがある。田中さんは、このような義務論と 他の理論を組み合わせ、ビジネスや医療の現場に適用できる「倫理コミュニケーション」を考える研究者だ。 また、医療従事者の社会人学生に専門職倫理を教える優れた教育者でもある」哲楽第3号p.38より
—今日は番組が始って以来の日本最南端の場所に来ております。
熊本大学教育学研究科熊本大学文学部総合人間学科教授の田中朋弘先生の研究室に来て
おります。田中先生よろしくお願い致します。
よろしくおねがいいたします。
—-田中先生のご経歴を簡単にご説明したいのですが、まず大阪大学大学院文学研究科
というところを修了されまして、カント哲学についての研究で博士論文を書かれ、2000
年に博士(文学)の学位を取得されました。その後琉球学部法文学部の講師をなさって、
同じところで准教授になられ、熊本大学に移られて、現職というご経歴でございます。
田中先生のご専門は元々はカント哲学ということなんですが、カント哲学というと、一
般に義務論というふうに呼ばれておりまして、前回児玉先生にご紹介頂いたのが功利主
義という立場だったんですが、功利主義と義務論というのは倫理学の中のなかの代表的
な考え方であるんですが、この義務論という立場がどういうものなのかを簡単に教えて
頂けますか。
規範倫理学の理論はいまお話にあったように、代表的には義務論とか功利主義というも
のがあるんですが、義務論は行為を端的に行為という観点から見るという点では功利主
義と同じなんですが、行為の手続きそのものが端的に命じられるというタイプのものを
義務論的理論といっています。これは別の言い方をすると、何かをしなければならない
ときに、別の目的が他にあって、これこれをするために、このことをしなければならな
いというような仕方で、考えないような理論ですね。今言ったようなのは目的論という
ふうにいっていて、功利主義はその最たるものとして考えられますが、例えば社会全体
で可能な限り悪に勝る最大の善を最大にするために、ある行為をなすべきであるという
場合には、目的が別に掲げられていて、そのために目の前の行為を行うべきだとか、あ
るいは規則を採用するべきだとことになります。
例えば私がやっていたようなカントの倫理学だと、端的に嘘をつくなという場合には、
「嘘をつくな」だけなんですね。そういうしかたで、義務について考えるのを義務論と
いうふうにいっています。だから他の目的との関係では全く義務について考えず、それ
自体で義務を考える。実際には我々はそういうふうに考えるところが少しありますよね。
「嘘をつくな」とか「人を殺すな」という命令にかんしていうと「なんとかだから、人
を殺すな」というふうには普通はあまり考えないと思うんです。例えば自分の子どもに、
「人を傷つけたり殺したりしてはいけませんよ」、-小さい子に人を殺すな、というこ
とはないと思いますけど、-もし仮にそういう時に、例えば、「あなたが殺されたら困
るから、あなたは他の人を殺してはいけませんよ」というふうにいわないと思うんです。
普通、端的に「殺すな」と。あるいは「嘘をつくな」という場合でも同じように、「あ
なたが嘘をつかれたときにあなた自身が損するから嘘をついちゃだめよ」というふうに
は言わずに、端的に「嘘はついたらだめよ」とまず言うと思うんですよね。そういう考
え方というのはある程度の枠組みでは我々受け入れているところがあるんですが、でも、
少し成長してくると、それだけじゃ上手くいかないということがわかってくるので、ま
た別の考え方というのがでてくるわけなんですけど。さしあたって、義務を端的にそれ
自体で考える考え方のことを義務論というふうに一般的には言っていて、少し詳しくは、
行為義務論とか規則義務論とか複雑な分類も少しあるんですが、一番基本になるのは、
今申し上げたようなことですね。
――そういう義務論という立場について研究されて来られた田中先生なんですが、この
義務論という立場の代表者がカントという哲学者で、カント哲学であったりとか、今日
お話を詳しくお伺いする脳死の問題を含む、生命倫理学に関心をお持ちになるに至った
きっかけというのは何か、よろしければ教えて頂けますか。
インタビューをまとめた記事は哲楽第3号でお読み頂けます。